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小松簡易裁判所 昭和33年(ろ)45号 判決

被告人 松岡義雄

主文

被告人を罰金四千円に処する。

右罰金を納め得ないときは、金弐百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、被告人の負担とする。

理由

被告人は、医師の免許を受けていないのに、別表のとおり昭和三十三年四月十日頃から同年六月二十八日頃迄の間小松市安宅町カ五〇番地釜田理平方等に於て釜田理平外四名の疾病を治療するため病状を診断し、しやぶの根をすり、焼酎塩を混入した薬液で患部を湿布し又同様の薬液をうがい薬として与えて投薬し、以つて医業をなしたものである。

(証拠)〈省略〉

法律に照すに、被告人の判示所為は、医師法第十七条第三十一条第一項第一号に該当するところ、所定刑中罰金刑を選択し、その金額範囲内に於て被告人を罰金四千円に処し、右罰金不完納の場合は刑法第十八条を適用して金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。証人釜田理平、同北村貞治に各支給した訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い被告人の負担とする。

因に、医師法第十七条は医師でなければ医業をなしてはならないと規定し、医師とは医師国家試験に合格し、厚生大臣から医師免許を与えられたものを謂うと定義づけることが出来るが(第二条参照)医業とは一体如何なる行為を指称するかについて、医師法は何等の定めをしていない。仍てこの点について当裁判所の見解を附陳する。凡そ医師法第十七条に所謂医業とは繰りかえし継続して医行為をなすことであると解する。然らば医行為とは如何なる行為を指称するかが次に提起される問題である。当裁判所は、医行為とは人の疾病の治療を目的とし、且つ現代医学の立場から是認されている方法によつて診察治療(手術投薬等)をなすことを謂い、個々具体的事例の疾病の発見及びその治癒に適合するや否やは敢て問うところでないと解する。されば問診、視診(外部的疾患の場合多く用いられる方法であるが、特殊の内部疾患の場合も用いられる方法である)触診、打診、聴診、理学的検査、化学的検査は、仮令その一つだけの方法によつて病原を把握することが出来ないとしても、その何れもが現代医学の是認する診察方法であることには変りはなく、患部に湿布を施用することも仮令それが個々具体的事例の病症の治療には役立たないとしても是亦現代医学の是認する施療の方法であることには変りはないものと解する。だとすると、医師でない者が疾病治療の目的を以つてそのような行為を繰りかえし継続して行うことは医師法第十七条に違反する所為と謂わなければならない。今本件についてこれを観るに、前顕挙示の各証拠によれば、被告人は、判示の者等に対しその疾病治療のため、その者等から容態を聞き、更に患部と覚しき部分に手を押し当て、然る後痼疾だの、小心恐怖症だなどと申し聞けた後、判示液体を温め、雑布にしめして患部と覚しき部位に湿布したことが認められ、これ等一連の所為は現代医学の是認する聴診及び触診乃至打診並に施療に該当し、医業をしたものと解する。尤も被告人は、患者に敬神崇祖の精神を喚起せしめて精神的安静を保持せしめることにより病気を克服することを主眼とし、その方法たる祈祷乃至まじない類似の行為の一環として前記行為をしたものであることはこれを認め得るけれどもこのことのために本件犯罪がその成立を妨げられるとは毛頭考え得られない。蓋し、医業たることの認識の有無は本件犯罪の成否に何等の関わりのないものと解するからである。

以上の理由によつて主文のとおり判決した。

(裁判官 山本利三郎)

(別表)〈省略〉

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